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☆Novel contents☆ 

( それまでのお話 ) 前編 『 追憶の森 ~ 後編 ~ 』 

( Scene 15-1 神の住む森 )

誰にも心を開こうとしなかった凜が、アイツと楽しそうに笑ってる所をみてしまった        

それを見たとき、安堵の感情と共に、『あの男』に対する激しい嫉妬が生まれた。

その男は、宝田教授の助手としてこの森にやってきた。
宝田教授は、海外からの評価が高く、各国の要人ともコネクションを持っているすごい人物らしい。
長から客人として丁重に扱うようにと言われた俺達は、それに従った。
だが、その助手は、一族の男達にとって招かれざる客だったようだ。

客人が来ること自体は珍しいことではなかった。だが、彼のような若い色男は別だ。
女達が色めき立つのも、ある意味、仕方のない事だろう。
だが、そんな女達に対して顔色一つ変えない彼のすかし顔が、何よりも男達の癇に障ったようだ。

モテない男のひがみというものは醜いな…なんて、その時の俺は他人事にしか思っていなかった。
だが、あの男は、こともあろうに凜にだけ、興味を示したんだ。

「あの白いワンピースの娘は…」

声をかけられ頬を染める女達を他所に、凜は男を一瞥すると何も言わずに立ち去った。
その後も、神座の屋敷に滞在する事になったあの男が、凜に話しかけようとする姿を見かけたが、凜がそれに応えることは無かった。

誰に対しても変わらない…心を閉ざしたままの凜。

だから、俺は気づかなかった…。
俺の知らないところで、
二人が惹かれあっていったことに          

「やっぱり、女神に選ばれた女は違うわね…」

聞こえてきた女達の声に、俺は足を止めた。
凜を蔑む言葉の数々に、俺は込み上げてくる怒りを抑えられなかった。

一族の女神になること           それが何を意味するか、知らない者はいない。

( よくそんな口が…誰のおかげで今そうしていられるとっっ… )

凜が女神に選ばれるだろうことは最初からわかっていた…
         女神に選ばれるのは、一族の中で最も能力に秀でた女性だからだ。

でも、そのせいで両親を亡くし、記憶まで失った凜に…それを強いる長が、俺は許せなかった。
だが、そのことを怒りまかせに説き伏せても、凜への風当たりが強くなるだけだ。

フゥー…と息を吐き出して、その場を立ち去ろうとした時…

「また二人して仲良く森に入っていったのよ…何をしてるのかわかったもんじゃないわ」

           聞こえてきたその言葉に耳を疑った。

( また…ってどういうことだ?…凜とあの男が      ?! )

次の瞬間、勢いよく開け放たれたドア…顔を引き攣らせた女達を前に、俺は我を失って問い質していた。
すると、一人の女が震える手で、窓の外を…二人が向った方向を指し示した。

俺は窓を飛び越えると、そのまま二人の後を追いかけた。

神の住む森と呼ばれる…一族の人間でも、闇雲に動けば遭難する可能性だってある広大な森。
そんな森の中を無我夢中で探して走った。…だが、二人の姿は見当たらない。
足を止めて、息を整えながら…

( 女達の戯言を本気にするなんて…凜とあの男がなんて )

「…そんなこと…あるわけないだろ…っ」

自分に言い聞かせるように呟いた。
そして、来た道を戻ろうと足を踏み出した時         聞こえてきたんだ。

楽しそうに笑う凜の懐かしい声が         

声がする方へ息を潜めて近づいていくと、そこには、昔と同じように動物達と戯れて微笑む凜がいた。

tsuioku-03_1003.jpg

あの頃の記憶が…オーバーラップする。
そこにはもう一度見たいと、ずっと願ってた凜の笑顔があった。

でも、凜の前にいるのは俺じゃない…
愛しそうにアイツをみつめる凜を見る度、胸が苦しくて…悔しくて堪らなくなった。

そこは俺の場所だったのに         っ…

俺が凜を笑顔にするはずだったのに、なんで…っ!

( Scene 15-2 神の住む森 回想シーン )

神座一族の直系血族…長の孫として生まれた俺と凜は、同じ屋敷で兄弟のように育った。
幼馴染の従兄弟…同い年の俺たちは、生まれた時から一緒で、
互いに一番近い存在だった          …あの日を迎えるまでは。

体の弱かった凜は、母親の監視が厳しくて、他の兄弟と一緒に遊ぶ事はほとんどなかった。
次代の長候補として過酷な教育を受けてきた兄弟達は、凜を馬鹿にして相手にしなかったからだ。

             でも、俺は優しい凜が好きだった。

凜が窓辺に立つとそれだけで小鳥やリスたちが集まってくる。
俺は森でどんぐりや木の実を採ってきては、凜の部屋にそれを届けた。

二人で過ごした穏かで幸せな時間…。

一族の能力者として生まれるのは男が多く、女で能力を持つものはそれだけで女神候補となる。
俺の母もまた、それを理由に女神に選ばれた。
能力のなかった母の妹…凜の母親である叔母は、女神としての役目を果たす母を一番近くで見てきた。
…だからこそ、凜を男として育てることにしたんだろう。
今ならその理由が痛いほどわかるのに…あのときの俺には、それが理解出来なかった。

俺は自分の父親が誰なのか知らない…一族の誰かには違いないんだろうが、それを知る術もなかった。
それが異常な事だと気づかずに、兄弟達は長に認めてもらいたい一心で必死に勉強してた。

俺にとっては、母もまた、母親と呼べるような存在ではなかった。
一族の女神としての役割は果たしていたが、…母の心は、壊れてしまっていたんだろう。

神座の屋敷にはたくさんの人がいたが、俺にとっては凜だけが、唯一心を許せる存在だったんだ。

ある日の午後、いつものように凜の部屋へと向かった俺は、そこで青い顔をしてうずくまってる凜をみつけた。
苦しそうにしてる凜の服が赤く染まっていて、、、動転した俺は、急いで叔母を呼んだ。

            その時、凜が女の子だと知ったんだ。

それは抗えない成長の証…10歳になった俺たちは思春期を迎えていた。

いつまでも子供のままじゃいられない         

だけど、長というものに興味がなかった俺は、凜といられればそれだけで良かった。
なのに        
凜が、女のコだとわかった時…俺はひどく裏切られたような気分になったんだ。

             凜が悪いわけじゃなかったのに…

「凜が女の子だったなんて…っ」

何も知らされていなかったことがショックだった。

屋敷に住む子供はみな男ばかりだった。
…もしかしたら、それは母さんの呪い…いや、願いだったのかもしれない。
まったく女の子が生まれないことに焦っていた長が、次代の女神候補探しに躍起になっていたことをその時の俺は知らなかった。

屋敷の縁側に座って…ポツリと呟いたはずの独り言         。
まさかそれを、長に聞かれてたなんて思いもしなかった。

その後の事は…思い出したくもない。
凜と叔母夫婦は森を抜け出そうとして…その日、凜の悲痛な叫び声が、森に木霊した。

一斉に飛び立った鳥達、凜が目覚めるまでの間、森は恐ろしいくらいに静かだった。

そして       …神様は俺に、罰を下した。

両親を失った凜は、言葉も笑顔も、それまでの記憶さえも失った。

凜に忘れられてしまった事が、憎まれる事よりも悲しく…辛かった。

あれから10年の月日が経ち、凜は、美しい女性に成長した。
昔のように笑いかけてくれる事はなかったが…俺は一番近くで凜を見てきた。
幼心に芽生えた感情の正体が恋だとわかった後も、ただ、見守ることしかできなかった。

             でも、凜が女神に選ばれた時、決意したんだ。

俺が長になって、この忌まわしい習わしを変えてやるんだって…
…凜が他の男になんて、考えたくもなかった。
今度こそ、凜を幸せに…俺が、凜に笑顔を取り戻してみせるんだって…
そう誓ったのに             

*******

アイツにだけは絶対に惚れないと言いながら、頬を染めるキョーコを見たとき、嫌な予感がした。
それでも、俺には自信があった…俺が負けさえ認めれば、
いつでもキョーコを取り戻すことが出来るって           

( わざわざあの男を待ち伏せて、キョーコにもあんな約束をさせたっていうのに、
牽制にもなってなかったなんて、バカみてーじゃねーか、、、 ) 

やっと合流できた撮影…そこで俺は二人の変化に気づいてしまった。

*******

キョーコとアイツが共演するって聞いて、いてもたってもいられなくなった俺は、社長に頼んで映画に出れるようにしてもらった。
だが、監督は俺の演技(出来)次第だと確約はしてくれなかった。
強かな社長は、主題歌のオファーを取り付け、楽曲を提供する事になった俺は、曲作りにも追われることになった。

制作段階で俺の名前がキャスティングされる事はなく、映画はクランクインした。
監督のイメージに合わせて、何度も作り直させられた曲が仕上がった頃、映画の撮影は中盤を迎えていた。

俺に与えられたのは…神座 翔           後半でキーパーソンとなる男の役だった。

幼馴染という役どころに作為的なものを感じなかったわけじゃないが、そのおかげで役作りに困ることはなかった。
それどころか、翔の気持ちが痛いほどわかってしまう自分に、現実が重く圧し掛かってくるようだった。

こんなはずじゃなかった…
仕方ねーから、俺が負けてやる…って、そう言えば簡単に取り戻せるって思ってた。

でも、現場にいたのは俺の知ってるキョーコじゃなかった。
役に入ってるせいかと思ったが、それだけじゃない…二人の醸し出す空気が以前とは明らかに違っていた。

傍目には仲のいい事務所の先輩と後輩としてしか映っていないかもしれない…でも、俺の目は誤魔化されない。
隠したつもりでも隠しきれない色香…キョーコから女を感じた。

その時、アイツに喰われた…んだと確信した              。 

愕然とした   … 自業自得といえばそれまでだが、
アイツに靡いたキョーコに対してなのか、不甲斐ない自分への怒りなのか…
とにかく、キョーコを変えてしまったあの男が、憎くて堪らなかった。

こんなの認めねー…認めてなんかやれねー…
キョーコが俺から離れるなんて…そんなの許せるわけねーだろ!

他の男の手垢がついたって譲れないんだ…
キョーコだけは       

*******

「最初から、知ってたんですね」

不破が合流してきた日、撮影の合間で社長にそう切り出した。すると、悪びれる事もなく社長は応えた。

「まぁな、さすがの新開君も…アカトキの社長の頼みじゃ、断れんだろう?」

「…っ」

それは正論で、この業界ではよくあることだった。…でも、俺は本格的に動き出した不破に動揺を隠せなかった。
すると、社長は楽屋へ場所を移すように目配せした。そして…椅子に腰掛けた社長は、にんまりとした笑みを浮かべて言ったんだ。

「…なんだ、蓮…自信がないのか?…彼女を手に入れたんだろう…?」

感謝しろよとでも言いたげなその顔に、俺は引き攣りそうになるのを耐えた。
どうやら、俺も不破の事をとやかく言える立場にはないらしい。

( 情けない話だが、確かに…社長には感謝すべきなんだろうな… )

心も体もひとつになった…俺だけの彼女を知ってるからこそ、こうして…なんとか平静を保つことが出来てる。

負けるつもりも、彼女を譲る気もないが…不安は消せない。

あの娘は…アイツの気持ちを知らないから       …  

黙ってしまった俺を見て、ある考えに至ったらしい社長が大きく目を見開いて言った。

「…まさかっっ!!! お前ぇ…本当に雄の本能を忘れちまった…わけじゃねーよな?
確かに、最上君相手じゃ、手古摺るのもわからなくはないが、お前はそんなに理性の固いコじゃなかったはずだろう?
これだけ俺がお膳立てしてやってるっていうのに、お前って奴は~~っ」

…何の心配をしてるんだ、この人は…と、心の中で盛大に突っ込みつつ、俺はわざと不敵な笑みを零して社長に言い返した。

「・・・そんなヘタレだと?心配には及びません」

そう、今の俺はあの頃とは違う。もう、俺は自分を見失う事はない…

今回、社長が出演を踏み切ったのは、不破の事があったからだろう…
彼女からも色々と聞いていたようだし、この映画だって…そうだ。
本当にこの人は俺に過保護なんだから…。

不安になることなんてないんだ…
今、彼女の心を占拠してるのは不破じゃないのだから       

*******

神の住む森         …映画はこの最終ロケ地で、クランクアップを迎える。

監督と社長…それに社さんの目が光る中、撮影は順調に進んでいった。
その日、夜を待って行われた撮影は…月明かりの蔵の中、翔が凜に想いを告げるシーンだった。

未遂に終わるソレは露出もなく、濡れ場といってもハードなものではなかった。
それでも、相手がアイツだというだけで、俺たちの中には変な緊張感が走った。

彼女が俺の反応を気にしてるのが手に取るようにわかった。
役者という仕事をする以上、互いに避けては通れない道。
目の前で奪われたあの時に…役者の心得を教えたのは他でもない俺自身だ。
まさか、彼女とアイツのキスシーンをまた見せつけられることになるとは思いもしなかったが、
芝居なのだから…と何度も自分に言い聞かせた。

俺は新として…彼女を救い出すことだけを考えるんだ。

*******

凜は記憶を失くしたわけじゃなかった         … 

傷ついた彼女は全てを忘れた振りをして…森から出る方法を模索していた。

性別を偽り、貴女の為なのよ…と我慢ばかり強いられる生活に彼女も辟易していたんだ。
自由を求めて、空を見上げる日々。
あの鳥のように自由に飛ぶことの出来る羽が欲しいと、彼女はずっと願っていた。

そんな彼女にチャンスは突然やってきた、長に嘘がばれたのだ。
焦る両親とは裏腹に、彼女は羽を手にした気がしてた…。
でも、その羽はとても脆くて…彼女は飛ぶ事に失敗し大きな傷を負った。
         そして、森という鳥篭の中で生きていくことを幼い彼女は余儀なくされたんだ。

彼女は自分の運命を呪った…自分の中に流れる血の一滴さえも許せなかった。
翔のせいじゃないことはわかってたが、その時の彼女には、すべてがどうでもいいことに思えた。

そんな彼女が立ち直るきっかけになったのも、森だった。
彼女の扱いに困った一族は、腫れ物に触るように接するようになっていたから、屋敷を抜け出す事は簡単にできた。

森を歩く一人ぼっちの彼女に、1匹、また一匹と…動物達が集まってきた。

彼女は広い森でも迷うことはなかった       
動物達が道を教えてくれる…そうしてまるで導かれるように、彼女は大きな…古木の前に辿り着いた。

そこは神域と呼ばれる場所で…その昔、神が降り立ったとされる所だった。

はるか昔…数千年と生き続ける古木がまだ新芽の頃、それは空から突然落ちてきた。

彼女がそこで見たのは森の記憶…それは一族の歴史の始まりでもあった。
空からやってきた人ではない何かが、そこにいた一族の運命を変えた。
滅び行く種族が生きた証として残したソレは…一族に特別な力を授けることになった。
その瞬間から、私達は人ではなくなった。
異端者としてみなされた私たち一族は…森で暮らすしかなかったのだ。

外界との接触を断った不思議な力を持つ一族…そんな噂を聞いて、いつの頃からか、時の権力者が尋ねてくるようになった。
繰り返される歴史の影で、一族は人知れずその力を使って暗躍してきたのだ。

しかし、いつ尽きるとも知れない能力に頼った生活は次第に歪みを帯びていく。
その結果、今…私たちはこの地に眠る彼らと同じ運命を辿ろうとしているのだ。

このままでは、力を失くすだけじゃなく…その生命さえ失うことになりかねない。

凜は、そんな森の声を聞きながらも一族にそれを告げようとはしなかった。

          滅びてしまえばいい…と凜自身が望んでいたから。

ずっと心を閉ざしてきた凜を変えたのは        新との出会いだった。

教授に半ば無理やり連れて来られた森…
車から見える景色を、新はどこか懐かしい気持ちで眺めていた。
すると、白いワンピースが風に揺られながら森の奥へと消えていくのが見えた。

( 白いワンピース… )

新は、彼女に興味を持った。
そして、屋敷で初めて凜の姿を見たとき、心を奪われたんだ       

表情を無くした…凜の、どこか悲しげな憂いを帯びた後姿に誘われるように…
新は凜の後を追って、神域に足を踏み入れた。

そこには、あの日に見た森の風景が広がっていた。

甦る魂の記憶…流れ込んでくるその映像を二人は共有した。

遠い昔、交わした約束は長い時を経て、今…ようやく叶った。
前世で二人は、対立した一族によって引き裂かれた恋人同士だったのだ。

一族のすべてが同じ道を選んだわけじゃなかった…能力に頼らず、自分で道を切り開こうとした人々もいた。
それは一族の歴史から抹消された事実…別の道を歩んでいったのが、前世での新たちだった。

もう一度この森で会おうと、口付けを交わして別れた二人…
しかし、その約束は叶わないまま、二人の運命は閉じた。

…そんな魂の記憶のせいなのか、互いに意識するようになった二人は、
教授の手伝いをしながら、少しずつ…その距離を縮めていった。

それと同時に開花したのは新の中で眠り続けていた力だった。

この地に眠る彼らが、新の潜在能力を呼び覚ましたのかもしれない…新は覚醒した。

彼の能力は遠隔まで見通せる千里眼のようなもの       
目を瞑って念じれば、その光景が目の前にあるように脳裏に浮かぶ。
また、そのビジョンを接触することよって同じように他の人間に見せることも出来た。

森が教えてくれた…一族の始まりと終わり       

それを告げるべきか否か…新は迷った。
凜は、静かに新の答えを待った。…彼に委ねたのだ。

「一族の人間には後で伝えればいい…きっと教授がうまく言ってくれる。
それよりも、今は君を連れて森を出る事が先だ。
君に女神なんて…そんな役目を負わせたくないっ…森を出よう、俺が君を守ってみせるからっ」

凜には新の背中に生える大きな翼が見えていた。
その翼に優しく包まれて、自分の背中にも…幼い頃とは違う、確かな翼を感じた。

宝田教授が森を発つ前夜、何も知らない長達は教授を囲んで宴を楽しんでいた。
だけど、あの森で二人の会話を聞いてしまった翔は、凜を蔵に閉じ込めた。

宴が始まっても姿の見えない凜を新が探してる…
翔は、誰にも気づかれないように、宴を抜け出すと、凜の元へ向かった。

蔵の窓から差し込む月明かり…白く照らされた凜の横顔はとても美しかった。
その顔は当然笑顔ではなかったけれど…
儚げに月を見上げる凜が消えてしまいそうで…凜に駆け寄って、抱きしめた翔は告げた。

「行かせない…っ、アイツと一緒になんて…好きだ、ずっと…ずっと好きだったんだっ…」

凜は黙ったまま、何も応えてくれない…。
アイツには微笑むのに…本当は話せるのに…俺を憎んでいるから? 
許してくれなくていい…もう一つ罪を重ねる事になろうとも、この手を離せない…離したくない。
ぎゅっと抱きしめて重ねた唇…
そのまま凜のすべてを奪おうと押し倒したが、凜の瞳に映る自分をみて、翔は動けなくなった。

その顔はどこか慈愛を感じさせた…いつもの無表情な凜じゃなかった。

「なんで…どうして、抵抗しないんだ?」

「…それで翔の気が済むなら…」

その言葉だけで十分だった…
胸を締め付ける痛みに耐えながら、翔は凜から体を離した。

「…っ」

「森を出るわ…」

このまま、凜を手離すしか方法はないのだ…翔が長になるにはもっと時間が必要だった。
無力な自分では凜を救えない…翔もそのことは理解してた。
でも、森を抜けるには一族の追っ手を振り切らなければならない…
あの時のように、今度は凜自身が命を落とす可能性だってある。
躊躇していた翔に凜が優しく微笑んだ。

「大丈夫…心配しないで。願い続ければ想いは届くの」

やっと自分に向けられた笑顔なのに…涙でよく見えなかった。
自分の中で願い続けても叶わない想いが渦巻いているのに、翔が頷けるはずもなかった。

「…それは嘘だっ…」

「…それでも、諦めたらそこで終わってしまうから    …私はもう諦めたくない」

その時、蔵の扉が開いた。
助けに来た新を見て、綻ぶ凜の表情は、花が咲いたような愛らしい笑顔だった。
その笑顔を見たとき、翔はやっと初恋に終止符を打つ事ができた。

すぐには無理でも…きっと変わることができる。

「行けよ…後の事は俺が何とかする…」

翌朝、次代の女神を失ったことに気づいた一族は騒然としたが、宝田教授が、マスコミ各社に送った神の住む森の秘密を巡って、取材申し込みが殺到した森はそれどころじゃなかった。

明らかにされた森の秘密…閉ざされてきた歴史。
長達は求心力を急激に失い、一族はその出生を隠すように離散していった。
だが、中には行く当てのない者もいた。翔はそんな彼らを見捨てはしなかった。

森に残った一族…でも、忌まわしい因習に悩まされる事はもうない。

森を抜け出した凜と新がどうなったのか、翔には知る術もなかったが…
森の古木は役目を終え、土に還った。大木がなくなった森には、蒼空が広がった。
その空には、鳥達が自由に羽ばたいていた。

*******

映画は無事、クランクアップを迎えた。
絶対仕掛けてくると思った不破は、撮影中…何も行動を起こさなかった。

問題のシーンも滞りなく終わり、俺の嫉妬も最小限に抑えられた。
現場でも、彼女が以前のようにアイツを前に豹変することはなかった。

初恋に囚われて彼女を復讐に駆り立てた…アイツへの憎しみは消えてなくなったと思っていいんだろうか?
それとも、俺と付き合うことで復讐の事自体、忘れてくれたのなら…それに越したことはない。

とにかく、撮影も終ったし、もう心配する事はないか・・・・・・なんて、ロケ地を後にした俺はすっかり油断してたんだ。

ホテルに着いた時、監督に呼び止められた俺は二人から目を離してしまった。
姿が見えなくなった二人に、過ぎる不安…監督からの誘いを上手く交わして、彼女の部屋へと急いだ。
その途中で、二人の話し声が聞こえてきたんだ。

「キョーコ…お前、俺との約束はどうした?」

「…ちょっ、こんなところに呼び出して敦賀さんに見られたらどうするのよっ」

まるでいつかの再現シーンのように、階下から聞こえてくる声に俺は固唾を呑んだ。

「相変わらずアイツにずいぶんと気を遣ってるみてーだな…そーゆーところは俺の時となんも変わってねーのな」

「…何が言いたいのよ?」

「結局…アイツに惚れちまったんだろう?あんだけ俺に啖呵切ったって言うのに、所詮…お前もその辺の女と一緒だったってことじゃねーか」

俺の知らないところで交わされる二人の会話…それだけで心がざわついた。
アイツの挑発に乗せられる彼女を想像した俺は、アイツが仕掛けてくる前に二人を引き離そうと急いで階段を降り始めた。でも、彼女は           。

「…そうね、あの人を好きな気持ちはもう否定しないわ、でも、約束を破ったわけじゃないでしょう?」

その言葉に出鼻をくじかれた不破は言葉に詰まった。

「なっ…」

「一流の役者…にはまだ遠いけど、こうして主役ももらえるようになったし、…あの人の技術(スキル)だって、少しは再現できるようになったつもりよ?」

           技術(スキル)を再現?

「…何のことだ?」

俺と同様に何のことか理解出来なかった不破が彼女に訊いた。
すると、チュッというリップ音が聞こえてきて、唇に指を立てたキョーコが艶めいた声でアイツに言ったんだ。

「…バリエーションが豊富すぎて、まだ全部は再現できそうにないんだけど…」

バリエーション…って、、、まさか… っていうか何故、不破相手にそんな顔…

「なっ…///…お前っ…」

キョーコのキス顔に照れる不破を見て、苛立つ俺。

「キスがあんなに気持ちのいいモノだって知らなかったわ やっぱり、あの人は最高の教科書よ
敦賀さん以上に 役者として私を高みに牽引してくれる人はいないわ」

これみがしに不破を挑発する彼女…

「お前…やっぱり、アイツと       …アイツだけはありえないって…そういってたじゃねーか!」

彼女のペースに不破の方が冷静さを欠いていく…。

「あの時は、あんたの時以上に愚者になる自信があったから…認めたくなかったのよ…」

あの時は         … 好きになるのが怖かった…
それは、彼女の口からも聞かせてもらった言葉だった。
でも、それじゃ…今は?

「今は違う       ? 俺と付き合ってるのは芝居の為…だけ?」

首を傾げて、拗ねた声で甘えるように彼女に言った。

「なっ…敦賀さん…っ」

少し照れたように困った顔をした彼女は、俺とアイツを交互に見てバツが悪そうに俯いた。
俯いたままの彼女に…

「約束って…何?なんで俺に隠れて不破と…」

不機嫌を露わにすると、彼女はオロオロと焦りだした。
そうやってわざと困らせて、アイツから視線を逸らせた俺は、彼女との距離を詰めていく。

「あ、あのそれはっっ…その…っ ショータローが…」

呆然としてたアイツが、覚醒したように…戸惑う彼女に代わって答えた。

「日本でトップクラスの役者になれなかったら、俺ん家(実家)で一生仲居として働くって約束したんだよ」

そう言い放った不破に、俺は安堵の顔をみせて彼女の肩を抱いて言い返した。

「…なんだ、そんなことか・・・それなら問題ないよ、彼女は必ずなる…俺が保障する」

共演者なら誰もが肌で感じることだろう。
彼女は間違いなく、日本で一握りと呼ばれる一流の女優になる。
不破もそんな彼女の力を認めてるのか、言葉に詰まった。

「そ、それだけじゃねー、お前に惚れて平伏してる時点で負けなんだよ」

どうして俺に惚れたら負けなのか、理解に苦しむが・・・

「勝ち負けとか…よくわからないが、彼女が俺のスキルを盗む為だけに寝たというなら、平伏さなきゃいけないのは俺の方だろう 俺はもう、キョーコなしじゃいられない身体になってしまったからね…
そんなわけで悪いけど、彼女は返して貰うよ?」

そう云って、俺はキョーコを背に隠した。

「なっ…仮にも芸能界一ピーと呼ばれる男が、そんな・・・」

「プライドなんかより…彼女が大事なんだ、君と違ってね…それに、もっとレクチャーされたいみたいだから、彼女の期待にも応えないとね」

言い終わるのと同時に彼女を抱き上げた。

…俺に内緒で不破と二人きりになったお仕置きは受けてもらうよ?

にっこりと笑った俺の無言の言葉に、彼女の顔は赤くなったり青くなったり…とても忙しそうだ。

完全にアイツの存在を忘れてる彼女を抱いたまま、アイツに背を向けた俺はその場を後にした。

翌朝…起き上がれない彼女の為に連泊することになったのは関係者だけの秘密。



( おまけ )   

…あの男はそう言って、その嫌味な長い脚を使って颯爽と…信じられないスピードで去っていった。

なんだ、アレ… 
嘘だろ?? キョーコの前ではあんな顔するっていうのか?

敦賀蓮…温厚で紳士、だけど鬼畜…キレたらやばい危険な男…

キョーコの前では、あんなワンコ面を晒す…芸能界一…ミステリーな男

って・・・、ふざけんなっ!! 

俺だって諦めたわけじゃねーんだからな!!!

~FIN~
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